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〔column〕設計事務所と家を建てる理由
建築設計事務所(建築家)の5つのタイプから見えてくるもの
家を建てようと!と考えたとき、多くの人はまず土地や予算を用意し、そして次に、どの会社に頼むかを考えます。その選択肢の中に「設計事務所」が真っ先に入る人は、まだそれほど多くないかもしれません。理由はきっと「なんとなく難しそう」「時間がかかりそう」「価格が高くなりそう」「好みが合うか分からない」「面倒くさそう」「言いたいことが言えないのでは」……ウエブサイトの中を見ると概ねこんなイメージを持たれているようです。
設計事務所が発信している内容だけではわからない事が多いのは原因の一つだと思います。
実際に設計事務所の内部に入ってみると、設計事務所は実はわかりやすいのではないかと思います。なぜなら設計事務所は運営・主宰する人の考え方や性格や志向が素直に仕事にそのまま現れているからです。
各事務所多様ですが、環境を掘り下げる人、美しさを極める人、もちろんそんなステレオタイプできっぱり分けられるものではありませんが、全ての事務所が設計技術者としての職能を持ち合わせながら、自分や事務所の特別なミッションとものづくりの個性を持ち建物を造っています。
そこでこのコラムでは少しでも建築設計事務所について知ってもらうために、少々乱暴ではありますが、設計事務所を独断で5つのタイプに分類してみました。
本当はこれは分類というよりは、傾向のようなもので、実際はどの設計者ももっと複雑な要素を解決しながら設計しています。
しかし、その傾向やそれぞれの持ち味を知り、もしかするとこれまで設計事務所という選択肢を遠く感じていた人に「思っていたより、自分に合う家づくりの方法かも」と思って頂ければ、また情報収集の息抜きに気軽に読んで頂いて少し建築を身近に感じていただければ幸いです。
タイプ①
理念と哲学
人と環境にとって良い家のあり方の追求者(学者タイプ)
このタイプの建築家は、エネルギー効率や材料の地産地消など、環境、エネルギー、歴史などのテーマを持って日々研究し、見いだした方法を住宅設計にも積極的に取り込みます。
そのような要素を“条件”ではなく“素材”として扱う人たちです。
断熱性能、自然素材、自然環境との共生、オフグリット住宅、地産地消等々個別の専門分野やテーマを持ち、「この場所に住宅はどうあるべきか」という建築家の思考の結果として設計結果が現れます。
おすすめする人と成功のためのコツ:
このタイプの人は自分の考えを発信していることも多いと思うのでそれをよく読み込んでみて、同じ理念を持つ設計者を探せればコンセプトの共有がしやすいと思います。そうして家を建て、ご自身の理念を形にした家に暮らすことでそれを実行していける人生になります。家に色々な事を求めず、シンプルに理念を実践していきたい人に向いています。
タイプ②
美意識と造形
理屈ではない感覚を形にするアーティスト系(芸術家タイプ)
美しい建物・空間を構成することに全力を投入するタイプです。
空間のプロポーション、開口、素材の扱い方など理想的な美しさを追求するための引き出しをたくさん持っています。独自のファンタジーがありその美意識は感覚的ですが、論理に基づいていることもあります。時には言ってることが分からないこと(笑)があるかもしれませんが、言葉よりできたもので語ります。
おすすめする人と成功のためのコツ:
美しい空間、美意識に囲まれて暮らす事が最も大切だと思う人はこの選択肢以外はないかもしれません。自分がイメージする美意識と合っている作風の人を選んだら、欲しい機能や重要な点に関しては素直に伝えながら、意匠に関しては細部の指示はほどほどに、ある程度建築家に任せて実力を発揮してもらうことが成功の秘訣。予算管理はしながら、全体のバランスを預けてこそこのタイプは力を発揮します。
タイプ③
技術と空間性
建築としての新しさ、先進性を見いだす実験家(探求者タイプ)
構造的な考え方、工夫した性能や挑戦を建物の造形として表し、先進性や新しい表現の家を追求しています。構造的制約の厳しい土地や、特殊な要望のプロジェクト、社会問題の解決などでは本領を発揮してさまざまなアイデアを考え出します。建物の美意識や伝統などのあたらしい解釈や現代的な解決をする人も多く、見た事がないものやめずらしいものを生み出します。
おすすめする人と成功のためのコツ:
「この敷地条件で、こんな空間をつくれないか?」そんな挑戦的な依頼が大好物です。課題を共有して一緒に“試してみる”意欲のある施主に向いています。
自分の生活を考えた時に絶対にダメなことを伝えつつ、既成概念を越えて出て来るアイデアの意味を理解しそれに対してコメントすると信頼関係が深まります。新しい挑戦や先進性は時には一般的に考える端正な見た目の建物ではないかもしれませんが、それがこのタイプの建築の魅力でもあるので、バランスを求めすぎると良さもなくなってしまいます。
タイプ④
対話と調整
方向性を決め全てを統合していくディレクター(指揮者タイプ)
このタイプの設計事務所は、施主と会話することで設計を進めていきます。建物のコンセプトの決まった答えを最初から持っているのではなく、打合せの中で施主と一緒に考えながらさまざまな要件を総合的にまとめていきます。目的は専門家の知見と施主の生活感を行ったり来たりしながら数多い要素を最大値でまとめ、最終的に色々な意味で「納得感のある家」を造ること。非住宅系の建築プロジェクトも同時に手がけている場合も多い。
おすすめする人と成功のためのコツ:
設計チームと一緒に、要件の優先順位を確認しながら透明性のあるプロセスを楽しんで家を建てたい人に向いています。要望を伝えるときも、「なぜそう思うか」を添えると意を汲みながら全体にとってさらに良い別の新しい提案が出て来ることも。一緒に話しながら設計を進める事で、自分が何を求めていたかなどがはっきりとし、設計に反映することで建物と暮らしが一致します。
タイプ⑤
生活への共感
暮らしのスタイルと物語を提供する語り部(作家タイプ)
このタイプは、暮らしの細部に繊細に関心を持ち、生活の中での動作、朝の光の入り方、家族の関係など人の行為や気配を捉えるのが上手です。劇的なカタチを目指すのではなく「暮らしが自然に整う」空間をつくることに誇りを持っています。長く住むほど良さが分かる家をつくる人で、ある意味②のタイプとは違う作家的な個性を持っています。
おすすめする人と成功のためのコツ:
日常の喜びや好きなこと“どんな時に快適か”“どう暮らしているか”を具体的に共有すると設計が深まります。打合せの時に「そういえば、うちってこうなんですよ」と雑談できる距離感が理想です。その人の生活への観察ができると緻密な設計で暮らしに物語を組み込んでくれます。
設計事務所との家づくりは
自分で理想の家を手に入れる
積極的な選択肢
冒頭にも書きましたが、設計者や設計事務所のタイプはこの限りではありませんし、多面的な面を持っています。しかし共通していることは、家を「商品」ではなく「関係の結果」として唯一の家を設計するということです。
土地の条件も、コストの制約も、人の性格も、すべてが設計の一部として受け入れられるとき、家づくりは単なる計画ではなく、ひとつの経験になります。
設計事務所に依頼するというのは、「自分と別の誰かが真剣に住宅に対して考え合う時間を持つ」という選択でもあります。そこには手間も葛藤もあります。でもそのやりとりの中で生まれる家は、他のどんな選択にも置き換えられない“自分たちだけの場所”になるはずです。
気軽に気になる設計事務所に連絡していろいろな質問を問いかけてみてください。
追記
FEDLのタイプはというと、大枠ではタイプ④のプロセスを実践しながら、施主と一緒にプロジェクトに求められているものの優先順位を考えます。設計としては全体を均一にバランスを取るのでは無く、様々な考え方やタイプに対応できるように、①環境、②芸術、③実験にも対応します。そのため幅広い構造・設備・デザイン・造園の引き出しと探求力で様々な暮らしやビジョンに対応する家づくりをし、最終的な目標は⑤の暮らす方々が物語をつくっていく、ベースの場所を完成させることです。